
賃貸アパートでのカラオケは近所迷惑ですよね
ある日、父は近所の電気屋さんから8トラックのカラオケを購入し、狭い賃貸アパートの中で大好きな演歌を歌い出したのです。意外でした。あの父があんなに歌が好きだったなんて。それは私が小学生のころです。あれには本当に困りました。我が家は二間の賃貸アパートですから、そんなところでカラオケをされれば近所迷惑も甚だしい。第一、恥ずかしくていけない。
しかし、あのころは今とはだいぶ事情が違い、カラオケをガンガンやっていても文句を言う人はほとんどいませんでした。今の時代なら大変でしょう。ただでさえ騒音が問題にされている現代ですから。父が昼も夜もカラオケを鳴らしていても、近所の人たちは、「またやってるよ。よっぽど好きなんだね」と、笑っていれたのも、やっぱり古き良き時代だったからなのでしょうか。
しかし、私は我慢できませんでした。部屋は襖を隔てて二間しかありませんでしたから、父がカラオケを始めれば、もう大変なものです。しかも、父は毎晩のようにカラオケをやるのですが、晩酌をしながら歌う。ですから酔いが回ってくれば、それだけ気持ちよくなって、カラオケのボリュームも徐々に上がっていくわけです。こうなると聞いている方、正確には聞かされている方はたまりません。すでに酔っ払っているから文句を言っても無駄です。酔いつぶれて眠るのを待つしかありませんでした。
父がカラオケをやっているのを私がイヤがる理由は、やっぱり他人に聞かせたくないという思いがあったからでしょう。場所を考えてもらいたかったのです。今なら防音設備もありますから、多少は目をつぶることもできますが、夏などには窓を全開にして歌うのですから困ったものです。同じアパートの住民には本当に迷惑をおかけしました。しかし、そんな私の気持ちも知らないで、父はカラオケを止めません。それどころか、父はわざと外まで聞こえるように歌っている節がある。みんな、自分の歌を聞きたがっているんだ、と言わんばかりに。
そんなある夜のことです。私はアルバイトから帰ると、なんと母までが父とデュエットして、いい気持ちになってマイクを握っているではありませんか。もう、お手上げでした。